寺子屋稼業のかたわらで

京都、ときどき栃木。

遠雷と花火と

長い長い梅雨が明けたら、夕立の季節がやってきた。 いや、夕立というには、降り方に少し情緒が足りない。あまりに情緒が足りないから、山道を運転しているときに突然降り出したりすると、楽しいドライブがふいに命懸けになる。宇都宮では最近レモンやらマン…

月見れば……

実家の部屋は窓が南に向いていて、そしてそれだけが取り柄である。 寝ようと部屋の電気を落とすと、外の明るさに気づかされた。 真南を少し西へ過ぎたところ、薄曇りのむこうから、月明かりが差している。 向かいの家はすでに寝静まり、幹線道路の街灯は、こ…

何と言うことのない日 時代と時代のあいだで

空前絶後の10連休、と言っても、半分以上学生身分の、名ばかり自営業だ。影響があるんだかないんだか、自分でも良く分からない。 いちおう家庭教師先には、 「祝日ですけど授業どうしましょうか」 と、前々から聞いておいてはいた。だが、どこの御家庭も …

「ノーカー、ノーライフ」というノー、フューチャー

大学生になったら免許を取って、自分の車を持つんだ。 小学生、いや中学を経て高校生になってもなお、わたしは素朴にそう信じていた。 修学旅行の夕日に妙に心惹かれて、大学生になったわたしは、遠く祖国を離れ、京都を生活の舞台とすることになった。 新入…

くにへかえる

自分に対するはっきりとした、ただしそれだけでしかないふわふわとした自信を顔にみなぎらせて、ハイティーンの子らがキャンパスをバス停やタクシーの列へと歩み去っていく。その少し後ろを、わが子の価値を信じて疑わない大人が、距離をはかりかねるように…

ハンドルをにぎれば

相手の本性を知りたいのなら、ドライブに誘うに限る。 ハンドルを握るその立ち居振る舞いに、その人のすべてが現れるからだ。 京都で取得し栃木で磨かれた私のハンドルさばきは、それぞれの薫陶を受けたたいへん穏当なものである。交差点の5m以内では絶対に…

健全な思考への夜歩き

春先になる。じっと鏡を見る。 腹回りが大変なことになっている。 人間も動物なので、寒くなれば自然、それに対抗しようとする。 しかしアリストテレスによれば、人間は社会的動物である、という。 簡単に言うと、「ドラマのイケメンがみなスリムである」と…

岡崎にて

新卒で入った会社を辞めて、3ヶ月が経とうとしている。 今の下宿は、2月末に引き払うことにした。進学して以来、就職してもなおずっと動かずじまいで、2年契約をもう3回も更新している。大学にほど近くそこそこ広さもあるので、昔はよくいろいろな企画の舞台…

パスポートの話

大学生、というと海外旅行やら語学留学やら。 そういう風潮が強い時代にモラトリアムを送っていた。 なんだかなあ、という気持ちが、私を時代の波とやらに乗り損ねさせてしまった。 すなおにやっときゃいいのに、ということを、ことごとく逃して、今の私があ…

世界、カプセルホテル

「午前中断水」と書かれた紙が、郵便受けに入っている。 終わった話ではない。3日後のことだ。 昼に起きて遅く帰る生活で、午前中に水が使えない。用も足せなければ歯も磨けないし、顔も洗えないとなれば出勤もままならない。しかし、有休を取るにはまだ2ヶ…

夏の真ん中、盆地の底

アスファルトでミミズが干からびている。 時節柄べつになんということのないはずの画が、どうにも他人事とは思えない。 水を求めて地に焼かれるのと、「そういうことになっているから」という誰が言ったか分からない理屈で日に照らされているのと。 万物の霊…

ZOZOスーツと水無月の6月

ZOZOスーツが届いた。 整体に通い始める決意をした。 ZOZOスーツを注文したのは、サービスのリリースが決まってそう間もない頃だったと思う。もはや遠い昔のことになってしまって、具体的にいつだか全然思い出せない。あの頃のスーツは、悪いウルトラマンみ…

ZOZOスーツと水無月の6月

ZOZOスーツが届いた。 整体に通い始める決意をした。 ZOZOスーツを注文したのは、サービスのリリースが決まってそう間もない頃だったと思う。もはや遠い昔のことになってしまって、具体的にいつだか全然思い出せない。あの頃のスーツは、悪いウルトラマンみ…

選びうること、選びえないこと

休日の夜にカフェインを効かせすぎて、日が出るか出ないかというころになってようやく眠気がやってきた。出勤まで、それでもなんとか7時間はある。 明け方が朝になろうかという頃。隣の部屋の人が、壁に何ごとかぶつけている。いや。音にしては、身体に感じ…

初任給の京都

葵祭がすぎた頃から、盆地の風に少しずつ見通しの悪さが混じってくる。生暖かさが夜に及びだしたら、街中が祇園祭のコンチキチンにつつまれるまではそう遠くない。 それでも、半袖で通すのにはまだ気が早い。窓を開けていさえすれば、エアコンの電気代に頭を…

春夜思

モラトリアムに駆け込んでくるように、今年の桜はいつになく早くやってきた。御室桜も4月早々には満開になってしまって、京都にはもう初夏の足音がしている。 疎水の桜もそろそろだろうか。そう思って身ひとつで散歩に出たのは、もう3月も終わるかという日の…

ある幸せの話 —友人の結婚式によせて—

オーケストラ時代の同期の結婚式だった。 晴れ間の雨と、雪まで舞っている。傘を持とうか持つまいか悩ましい。オリンピックでも吉事があったし、神威の類にとっても今日はめでたいのかもしれない。とはいえ寒い…観光客の合間を、昨年夏の演奏会以来ご無沙汰…

雪夜の一人称

いやに冷える夜更けだと思えば、音もなく雪になっている。なるほど、寒いはずだ。窓の外のいつもの景色に、ふいに東山魁夷が思い出される。見えているのは吉田山であって、鴨川ではないのだけれど。しかし、となれば、寝間着を着替え、ダウンジャケットを羽…

帰りなんいざ

論文に追われて大晦日まで京都で過ごした挙げ句、なんとなく”すわりが悪い”という理由で、結局元旦から新幹線にゆられていた。 東大路を、七条の駅へとバスが下がっていく。吉田神社、熊野神社、平安神宮、知恩院、そして八坂神社…初詣という世間の非日常が…

実家の柿

雑草園と化していた実家の庭も、いわゆる「老境を迎えた」というやつなのか、最近は親がせっせと手入れをしてだいぶ体裁が整いはじめた。牡丹だ菊だプチトマトだ、とどうにも賑やかなことだ。そのうち石油でも湧くのかもしれない。 台風が通り過ぎた頃、唐突…

こんちきちんの夏

バイトの研修が終わり大通りに出ると、帰り道に交通規制が敷かれていた。 京都という街は悠長なもので、100万人以上の人口と1億人以上の観光客を抱えているにもかかわらず、きわめて気軽に交通規制が掛けられる。しかもその辺の小路ではなく、主要な大通りが…

ソクラテスの牛丼

彼女と牛丼屋はアリかナシか、という哲学上の難題が存在する。 「おひとりさまでどこまでできるか」と同じく、「彼女とご飯はどこまで許容されるか」ということについては、21世紀に入ってもなお、統一した見解が得られていない。こと「牛丼屋」に関して言え…

四半世紀のスケッチ

関東での説明会が中途半端に差し込んで、1週間ばかり帰省することにした。 午前中には京都を発つつもりだったのに、目が覚めてみると時計はとうに12時を過ぎていた。荷造りもままならぬのにテレビなどに気を取られて、駅へ向かったのは14時半ごろだった。 日…

珈琲序説

駅と無く、観光地と無く、土産物屋の軒先は「京◯◯」という名のお菓子で一面の抹茶色だ。 もちろん、京都が茶どころであるのは間違いない。そして、抹茶などを嗜んだり飲んだりする機会も、他の地域に比較すれば多いのかもしれない。 しかし、この街に住まう…

孤独な夢想者の散歩

交通費を浮かす窮余の策で、四条河原町からの帰りを歩くことが多くなった。 歓楽街に始まり、文教地区に至る。30分と少しの道のりだが、流れていく風景には、この街のすべてが映っている。クルマ社会で人生の大半を送ってきたけれど、いやそれだけにだろうか…

千年の愛人 —田舎者と7年目の京都—

さて、愛人というのは身分なんだろうか、それとも、職業なんだろうか。そもそも、いつごろからある言葉なんだろうか。 「妾」という日本語もあるし、そもそも「愛人」は中国語では「恋人」という意味の言葉だ。これはなんだか変だ。 いや、今は「愛人とは何…

寝たけれども寝たけれども

ねないこ、だれだ? 私である。 コタツだの学部棟だのでは自由自在に意識を飛ばせるのに、どうしてベッドという本来寝るべき空間ではなかなか寝付けないのか。 気になって夜も眠れない。 寝付きが悪い癖に、寝始めると長くて、しかも睡眠不足が露骨にパフォ…

悲しきイエスマン

お前のどこがイエスマンなんだ、基本何かと喧嘩してるじゃないか。早速そんな声が飛んできそうだ。 ところがどっこい、今日の私はまごうことなきイエスマンだった。何を言われても、何を聞かれても「はい」「はい」と応じるばかり。自分の意見を言おうにも、…

ある正月のスケッチ

我が家の初詣は正月の2日、日光に行くのがお決まりとなっている。 田舎者なのでどこかへ行くというと迷うことなく車であって、ハンドルを握っているのは、始めから終わりまで父だった。近年は私が免許を取ったために、少しずつ不肖の長男に運転席を譲りつつ…

出がらしの煎茶はふるさとの味

「朝茶は一日の難逃れ」という言葉は、生活の作法として幼少の頃より仕込まれてきた。実際は朝食にトーストが出たりすると朝茶がホットコーヒーになったりするわけだが、それでも休日の朝は、たいてい食後に煎茶が出てくる。 朝日と共に就寝する生活が久しく…